50歳男性Kさんの恋愛コラム
遠い昔の恋の記憶です。私は男子校かつ進学校育ちだったので、同世代の女性と遊ぶ機会がなく、高校3年間、女子高生と口すら聞いたことがない純な少年でした。
今でも若い女性の前で妙に緊張してしまうのは、そんな高校時代のトラウマのせいかもしれません。
それが大学生になった途端、化粧をした同年代の女子大生達と出会い、カルチャーショックを受けました。
女性が多いサークルに入ったため、周囲が急に華やかになり、高校時代に抑圧されていた自由を勝ち取った喜びで、とにかく毎日が刺激の連続でした。
ある日のこと、同じサークルの女性とたまたま同じバスに乗り合わせました。
そこで彼女から「●●君って詩が好きって聴いたけど、今度オススメの詩集貸してくれる?」と言われたのです。
後日、彼女に「八木重吉詩集」を手渡しました。すると「お礼にコーヒーおごるよ」と言うので一緒に喫茶店へ。その時、彼女から好きだと告白されました。ところが…
本当は私も彼女に好意を持っていたのですが、恋愛に対して臆病だった私は、彼女の想いを受け止めずに流してしまったのでした。
それから12年の歳月が経ったある日、突然、彼女から連絡があり、どうしても会いたいと言われました。
私は相変わらずのふわふわした独り者。ひょっとすると、あの時の恋愛の続きが始まるかもしれない・・・そんな期待が膨らみます。
呼び出されたのは、しっとりとしたバーのカウンターでした。
「私ね、今度結婚することにしたの。あなたに一番最初に報告したくてね」
彼女の瞳は何かを訴えかけているかのようでした。期待とは全く違った予想外の報告に愕然としましたが、私はその気持ちを押し殺して「良かったね!おめでとう!」と返しました。すると彼女の瞳は、現実に戻りました。
「私ね、学生時代●●君に憧れてた。でも、人生ってどこかでボタンの掛け違いって起きるのよね。」
帰り際、彼女はそう言い残して去って行きました。
今、あの時の彼女の言動を思い返すと、映画『卒業』のように私に略奪を求めていたような気もするのです。卒業のテーマ曲サイモンとガーファンクルの音楽を聴くたびに、あの選択は、正しかったのだろうか?と考えてしまいます。